「岩城陸奥の“Webサイト活用塾”」企業サイトとは何かを考えるきっかけに

岩城陸奥の“Webサイト活用塾”---目次:ITpro"


第1回Webサイトを戦略的に活用しよう
ひとりひとりのユーザーとコミュニケーションできるメディア

岩城:なるほど、私も企業に勤めてサイトの構築と運営にあたってきましたが、Webサイトは、じっくりと時間をかけて企業のメッセージを戦略的に伝えるのに良いメディアであることを実感してきました。

 そういう意味からは広告などとは異なるコンセプト、表現が求められていると思いますが、まだそのあたりの追求は不足しているように思えます。

勝尾:おっしゃるとおりですね。Webサイトはまず、ユーザーが主体的に動いて情報を取るというところが既存のマスメディアとは異なっていますね。それから一方的に情報を垂れ流すのではなく、双方向のやり取りができる。また、一人ひとりのユーザーのニーズにあったオリジナルのコンテンツを提供することができますね。ブログやSNSなど従来にはなかったコミュニケーションの方法も現れてきており、岩城さんがおっしゃるとおりこれかれからまだまだ新しい表現方法がでてくるでしょうね。

従来のデザインという概念をかなり拡張しないといけない。

岩城:Webサイトは企業のコミュニケーション手段として、今までのメディアとは異なる視点で評価する事が必要です。

 また、手法としてもヴィジュアルな観点だけでなく、テクノロジーユーザビリティなどの観点も重視しなければなりませんから、従来のデザインという概念をかなり拡張しないと実情に合わないことになります。


第2回「Webによる企業のコアバリューの伝達」
ウェブサイトに何を載せるか悩んでた。

岩城:私が企業でサイトの運営をしていたときも、企業サイトとして他のメディアと差別化してネットユーザーに伝えるべき事は何か、企業自身についてだろうか、商品の優位性についてだろうかと悩んだ時期があります。

企業ブランディングなら「あまり知られていない、その企業独自のスゴさ」がいい。
伝えたいけど言えなかった本音。

次田:私が企業サイトを手がけるようになったときにまず意識したのは、ネットの持つ「親密さ」ですね。メールもサイトも、基本は「個人メディア」だと思うのです。「マスメディア」とは「個人」でなくテレビ局や新聞社、いわば「社会」ですよね。

 マスメディア上の広告は、どんなに親密さを演出していても、どこかに「社会からのお達し」的な威圧感がありますよね。その「威圧感」をそのままネット上に移してこれまでのマス広告と同じように発信しても誰の心にも刺さらないと思うんです。

 企業がひとつの人格として、ひとりのユーザーに「親密」に語るのに適した企業メッセージ・・・私の場合は製品のマーケティングではなく企業ブランディングが仕事なので、「あまり知られていない、その企業独自のスゴさ」みたいなことこそ、企業サイトで発信するのにぴったりのコンテンツだと考えています。

岩城:そうですね。マス広告で発信することはある意味で整理された「たてまえ」であり、企業サイトから発信するのは、伝えたいけれど今まで良い方法が無かった、社内の思い入れに近い「本音」のようなものかもしれません。

 それは、ひと言で言うと「企業のコアバリュー」でしょうか。ここで言うコアバリューとは企業の商品やサービスの裏づけとなっている諸要素、つまり創立の理念、企業文化、事業の元になった技術などと理解していただければ良いと思います。松下電器の場合にはそれはどういうコンテンツでしょうか?

コアバリューは直接お金にならない。
ロングテールが狙えるウェブがぴったり。
決裁権を持つ経営者はコアバリューの重要性が分かっている、どう表現するか見せれば納得してもらえる。

岩城: なるほど、サイトを拝見してみましたがとても面白いですね。目からウロコの記事もありましたが、そういうものは既存媒体では発信しにくいので、これまであまり発信されてこなかったわけですね。

次田:そう、コアバリューを既存媒体で発信するのはなかなか難しい。広告は「深い情報」を語る時間やスペースがとれないものですよね(それもカネ次第ではあるのですが)。一方雑誌記事やテレビ番組などのパブリシティは、コアバリューを美味く料理してくれるのだけれど、企業の意図通りにはなかなか取り上げてくれない。その点、企業サイトは時間や場所はある意味無制限で、好きなように料理できるわけですからね。しかも、ずっとアーカイブできる。ロングテールってやつですね。

岩城:私もWebサイトは、じっくりと時間をかけて企業のメッセージを戦略的に伝えるのに良いメディアであることを実感しています。言い換えると「企業のDNAを伝える事ができるメディア」なのだと思います。

 ただ、そういうコンテンツはすぐに販売には結びつかないので、それを実現するのは結構力のいる作業です。次田さんはどのようにして社内を説得しましたか?

次田:松下電器は幸いにも、宣伝活動に対して伝統的に理解のある会社でして、社内への説得は「データ」よりも「表現」を重視してくれるんですね。表現を見てもらえば「なるほど、このコンテンツなら効果があるな」と理解してくれる。コアバリューは経営者は皆、知っているネタであり、しかも発信できていないことを自覚していることが多い。なので「表現」に落としさえすれば「この発信は重要やな。効果あるな。」となるのです。もちろん理解していただけないこともありますが。(笑い)

岩城:なるほど、経営者に宣伝活動に対する理解があるかないかが問題だと。

 ・・・そのあたりは、別の機会にジックリ話し合いたいところですね。(苦笑)

コアバリューはどうやって発掘するか?
飲みにいって「実は・・・」って話を聞くことがきっかけ。
発掘よりもどう表現するか。
ネタの発表の仕方、その成果が問われる。

 そのような企業内にあるコアバリューというのは社員の方々でも気がつきにくい側面があると思いますが、次田さんはどのように発掘したのですか。同じように自社サイトのコンテンツのプロデュースに悩んでいる読者の皆さんには参考になると思いますので、その秘訣を教えてください。

次田:秘訣と言うほどのことも無くて・・・社内で飲みに行ったりしたときに、ちょっと技術や商品や宣伝活動の話をしていると、「実は・・・」といろんな秘話が出てくるものですよ(笑)。大切なのは、「発掘のノウハウ」よりも、それを表現に落とし込める「メディアを持っている」かどうかだと思います。メディアとして社内で評価が高まり、広く認知されれば、ちょっとツツけば「あそこに載せてくれるのなら」とネタがこぼれ出てくる・・・4年もやっていればそんな状態になりますね。

岩城:「お宝は社内にあり!」ということですね!

 企業サイトは、自社媒体としてコンテンツづくりに社内の皆さんの関与が重要ということだと思いますが、その点では広告会社にお願いして制作していただくマス広告のコンテンツとは大きく異なっている部分でもありますね。

第3回「Webで企業の人格を表現する」
サイトに自社の商品やサービスをのせるのは当たり前。
それらの情報以外で、商品購入に寄与するものとしてコアバリューはどうだろうか。
人の好き嫌いみたいに、企業の好き嫌いもあるよね。
それって何だろね。

岩城:次田さん、こんにちは。再びご登場いただき、恐縮です。さて、今回は「Webで企業の人格を表現する」というテーマです。

 ユーザーが商品購入の最後の決め手とするのが企業サイトであることは各種の調査などでも明確になっていますから、自社の商品やサービスなどについての情報を掲載するのは当然のことで、各社それぞれいろいろな工夫を凝らしたコンテンツがあります。

 しかし、人が物を購入するときに商品やサービスの情報は重要であっても、それだけで意思決定をするのだろうか? もう少し、企業の内面にある価値もそれらに寄与するのではないか、という仮説が前回のコアバリューを発信するというテーマでした。

 そしてさらに、企業の内面にある価値という点についてもう少し深く考えてみたとき、人と人の関係でなんとなく気が合う人と、いわゆる反りが合わない人がいるように、同じような商品を販売している企業でも自分となんとなく相性の良い会社と、そうでもない企業があることに気が付きます。

 いわゆるファンとまではいかなくても、「私は**社の商品のほうが合う」というような感覚ですね。つまり、企業にも人の場合と同じような人格(法人と言いますから人格ですね)があって、それに対して好きとか、嫌いという感情が生まれてくるのだと思います。

 こういうことは、あくまでも理屈では無く、心で感じることですから、ユーザーのいろいろな経験を経て時間をかけて形成されていくものなのだと思いますが、こういう感覚について、次田さんはどう思われますか?

それはブランドっていうやつですね。
好きっていうのは、いろんなところで、染み込んでいったもの。
こっちを向いてもらって、好きになってもらうのが、企業Webプロデューサーの仕事
「伝達屋」にコアバリューは作れないけど、料理の仕方で好きになってもらえる可能性はあるよね。

次田:これはまさに「ブランド」に関するお話ですね。ブランドに対するロイヤリティ(忠誠心)は、時間をかけ、いろんな接点を経てユーザーひとりひとりに染み込んで行ったものですよね。私も一ユーザーとして、クルマ、時計、服、靴・・・と好きなブランドはありますが、なぜ好きなのか理由を誰かに説明しようとすると、説明できる部分と、説明しにくい非常に個人的・感覚的な部分とがありますね。

 前回の話でご紹介したコアバリューの発信なども、いかに一生懸命やっても、あるユーザーにはこんなふうに言われるかも知れませんからね・・・・「なるほど、松下がモノづくりが素晴らしいのは理屈では分かった。すごいよ。でも、個人的には何か嫌いなのよ、松下って」(笑)。

 そんな、あっちを向いている方々を振り向かせ、ブランドを好きにさせていくのがわれわれ企業Webプロデューサーの仕事になります。コアバリュー自体は、われわれのような「伝達屋」に作ることは出来ませんが、それをどのように伝達するか・・・料理の仕方次第で、好きになってもらえる可能性は大いにありますからね。


今日はここまで



第4回「企業サイトの戦略的活用とは何か」
第5回「インターネット広告で企業サイトに誘導する」
第6回「グローバルな企業活動を支えるWebサイト」ユーザビリティ/アクセシビリティを高める
第7回「Webならではの表現を探る」変化に惑わされず本質を見つめよう
第8回「メディア化する企業サイト」おもてなしの心が大切だ
第9回「目利き」になろう
第10回 グローバルメディアとしてのインターネット